古美術門運孔の更新担当の中西です
一品に物語がある
古美術品業の魅力は、学問的な深さだけではありません。実際の現場には、推理小説のような緊張感と、宝探しのような高揚感、そして人間ドラマがあります。どんな品も「ここに来るまでの道のり」があり、そこを読み解くことが仕事になります。今回は、古美術品業の現場の流れに沿って、面白さを具体的に紹介します。
1)仕入れは“出会い”であり“勝負”🤝🎯
古美術品の仕入れルートは多様です。旧家の蔵整理、遺品整理、相続に伴う整理、コレクターからの買い取り、業者間取引、古物市場、オークションなど。
仕入れは単に買うだけではなく、「品の背景を聞く」「価値を判断する」「適正な価格を提示する」「相手に納得してもらう」という交渉の連続です。
特に蔵整理は、現場力が問われます。ほこりをかぶった箱、湿気の匂い、積み上がった木箱、古い風呂敷。そこに眠る品は、時に驚くようなものが混じっています。しかし同時に、状態が悪いものや、模倣品、価値が付きにくいものも多い。
だからこそ、目利きと経験が勝負になります。
さらに、仕入れは“信用の仕事”でもあります。強引な買い叩きは一時的に得をしても、長期では信用を失います。古美術品業は人づての紹介が重要な業界。誠実な査定と丁寧な説明が、次の縁を呼びます。
2)査定の面白さは“推理”に近い🔍📚
査定は、単に価格を決める行為ではありません。
「これは何か」「いつ頃のものか」「誰の手によるか」「状態はどうか」「修理歴はあるか」「付属品は揃っているか」「伝来はあるか」
こうした情報を一つずつ積み上げ、価値を立体的に組み立てていきます。
例えば箱書き。箱に誰が何と書いたかで、価値が大きく変わることがあります。落款と印。筆致や線の癖。釉薬の景色。木味。金工の彫りの深さ。
一見同じに見えるものの中に、時代と作者の“癖”が隠れています。それを読み解けた時、仕事の面白さは最高潮になります。
また、査定にはリスク判断も含まれます。修理費がかかるなら、仕入れ価格と販売の見込みを計算しなければなりません。真贋の判断が難しいなら、扱い方を慎重に決める必要があります。
この“知識と経営”が交差するところに、古美術商の腕があります。
3)修理・手当てで“品が蘇る”✨🧑🎨
古美術品業では、修理や手当てが重要な工程です。掛軸なら表装の修理、裂の選定、折れの補修。陶磁器なら金継ぎや修理。漆器なら塗り直しの可否判断。古書なら虫損や欠けのケア。
修理は「新しくする」ためではなく、「その品の寿命を延ばし、価値を正しく見せる」ために行います。
修理をすると価値が上がる場合もあれば、オリジナル性が損なわれるため慎重にすべき場合もあります。どこまで手を入れるか、どう説明するか。ここに誠実さと判断力が求められます。
品が整い、光を受けて本来の美しさを取り戻した瞬間は、この仕事ならではの感動があります。
4)展示と提案で“品が生きる”🏠🖼️
古美術品は、見せ方で価値が伝わります。
器なら、季節の花を一輪挿す。茶道具なら、取り合わせの背景を語る。掛軸なら、床の間だけでなく現代の壁面に合わせる。
展示とは、品の意味を翻訳する行為です。
そして提案力が重要になります。
お客様の趣味、空間、予算、保管環境、家族構成まで考えながら、「この品がその人の暮らしでどう生きるか」を一緒に考える。
古美術品業は、モノを売るだけでなく、価値観を共有し、文化を生活に落とし込む仕事でもあります。
5)現場の魅力は“人との縁”👥✨
古美術品業は、究極的には人の仕事です。
蔵を守ってきた家の思い、コレクターの情熱、茶人の美意識、修理職人の技、次の持ち主の喜び。
それらが一本の線でつながっていく。
「この品、ずっと探していました」
「この掛軸が来てから、部屋の空気が変わった」
そんな言葉をもらえるのは、古美術品業の大きな報酬です。
次回は、古美術品業が持つ“現代的な価値”に焦点を当てます。投資や資産価値という話だけでなく、暮らしの豊かさ、精神性、文化の継承、そして若い世代との接点まで、今の時代に古美術が持つ意味を掘り下げます。📜✨